米イ戦争下でもTadawul指数が戦前高値を上回る理由|サウジ株式市場の回復力を分析

米伊戦争下のサウジ株式市場とTadawul指数の回復力を示すイメージ

米イ戦争とサウジ株式市場の現状

2026年3月、米国とイランの間で本格的な軍事衝突が勃発し、中東地域は深刻な地政学的緊張に包まれています。米軍によるイランのハルグ島への空爆、イランによるイスラエルやサウジアラビアの石油施設、UAE都市部へのミサイル・ドローン攻撃など、戦闘は約2週間にわたって継続しており、ホルムズ海峡を通過するタンカー輸送はほぼ停止状態に追い込まれています。

このような危機的状況下で、世界中のエネルギー市場と株式市場は大きく揺れ動いています。原油価格は一時1バレル119ドルに達し、2022年半ば以来の高水準を記録しました。国際エネルギー機関(IEA)は過去最大規模となる4億バレルの戦略備蓄放出を決定しましたが、アナリストからは「わずか9~10日分の需要にしか相当しない」との指摘もあり、市場の不安は完全には解消されていません。

こうした混乱の中で特筆すべきは、サウジアラビアの主要株価指数であるTadawul All Share Index(TASI)の動きです。WIONやBloombergの報道によれば、TASIは戦争開始前の水準を+1.7%上回って推移しており、ドバイ金融市場指数が約17%急落したのとは対照的な回復力を見せています。本記事では、この現象の背景と日本人投資家にとっての意味を掘り下げます。

地政学リスクと市場反応:Tadawul指数の動向

米イ戦争が勃発した直後、湾岸諸国の株式市場は総じて大幅な下落を記録しました。2026年3月1日にはTASI自体も2.2%下落し、昨年4月以来最大の日次下落幅となりました。しかし、その後の回復は驚くほど速く、3月8日までには5営業日連続の上昇を達成。エネルギーセクターを筆頭に全面高の展開となりました。

2026年3月12日時点でTASIは約10,893ポイントで推移しています。戦争が始まった約2週間前と比較して1.7%のプラスという事実は、市場が初期のパニック的な売りから急速に立ち直ったことを示しています。この回復の背景には、国内投資家による積極的な買い支えがありました。Bloomberg報道では「ローカルバイヤーが参入した」ことがサウジ株の回復力の主因として挙げられています。

指標 状況(2026年3月中旬時点)
TASI(Tadawul指数) 約10,893pt(戦前比+1.7%)
ドバイ金融市場指数 戦前比約-17%
サウジアラムコ 2026年年初来+約13%
ブレント原油 約98ドル/バレル(一時119ドル)
S&Pサウジ信用格付け A+(安定的見通し、3月13日確認)

他の湾岸市場、とりわけUAEが大幅下落したのに対し、サウジ市場が上昇を維持している点は、同じ湾岸地域内でも投資先によって地政学リスクへの耐性が大きく異なることを如実に示しています。

地政学リスクに関する留意点

現在の紛争は依然として継続中であり、イランによるサウジアラビア石油施設への攻撃も報道されています。市場の回復力は現時点のデータに基づくものであり、紛争の長期化やエスカレーションによって状況が急変する可能性があります。ホルムズ海峡の通行障害が長期化した場合、エネルギー供給網への影響はさらに深刻化し得るため、最新情報への継続的な注視が不可欠です。

サウジ株式市場の回復力を支える要因

サウジ株式市場がこれほどの回復力を見せている背景には、複数の構造的・制度的要因が存在します。

第一に、国内投資家の厚みと安定性が挙げられます。Bloombergの分析が指摘するように、今回の局面ではローカルバイヤーが下落局面で積極的に買いに入りました。サウジアラビアの株式市場は歴史的に国内機関投資家と個人投資家の比率が高く、外国人投資家の急激な資金引き揚げに左右されにくい構造を有しています。これがドバイ市場(外国人投資家比率がより高い)との明暗を分けた一因と考えられます。

第二に、原油高による恩恵です。紛争に伴う供給懸念から原油価格は急騰しており、産油国であるサウジアラビアの国家歳入と主要企業の収益に追い風となっています。特に市場の最大銘柄であるサウジアラムコは2026年年初来で約13%の上昇を記録しており、TASI全体を力強く牽引しています。アラムコは2025年通期で純利益が前年比12%減の934億ドルとなりましたが、初の自社株買い(30億ドル規模)を発表するなど、株主還元策を強化しています。

第三に、ビジョン2030と経済多角化の進展です。サウジアラビアは石油依存からの脱却を進めるビジョン2030戦略の下、非石油セクターの成長を推進してきました。IMFは2026年のサウジ経済成長率を4.5%と予測しており、経済のファンダメンタルズに対する国際的な信頼は堅固です。

第四に、信用格付けの安定も重要です。S&Pグローバルは2026年3月13日、サウジアラビアの信用格付けをA+/A-1で据え置き、見通しを「安定的」と確認しました。戦争が進行中にもかかわらずこの格付けが維持されたことは、サウジアラビアの財政的な強靭性に対する信認を裏付けるものです。

第五に、2026年2月の外国人投資規制の撤廃が構造的な追い風となっています。サウジ資本市場庁(CMA)は2026年2月1日付で、それまで適格外国投資家(QFI)に限定されていたTadawul市場へのアクセスを全カテゴリーの外国人投資家に開放しました。この制度改革は市場の流動性向上と国際的な資本流入の拡大を促進すると期待されています。

日本人投資家への示唆と実務的対策

今回のサウジ株式市場の動きは、日本人投資家にとっていくつかの重要な示唆を含んでいます。

まず、地政学リスクは一律に市場を破壊するわけではないという点です。同じ湾岸地域でも、サウジ市場とドバイ市場では全く異なるパフォーマンスを示しました。国の経済構造、投資家構成、財政状態、そしてエネルギー政策における立ち位置によって、地政学リスクへの耐性は大きく異なります。投資先の選定にあたっては、こうした構造的特性を丁寧に分析することが重要です。

次に、アクセス手段の確認と準備が実務上の課題となります。2026年2月以降、日本人投資家もTadawul市場に直接投資できる道が制度上は開かれました。ただし、実際の口座開設手続き、為替リスク(日本円とサウジリヤルの間の変動)、税務上の取り扱い、送金手段など、実務面で確認すべき事項は多岐にわたります。対応する証券会社やブローカーを通じて、最新の規制要件と実務フローを事前に確認することが推奨されます。

さらに、ポートフォリオ全体の中での位置づけを慎重に検討すべきです。サウジ株式は原油価格との相関が依然として高く、エネルギー市場の動向に左右されやすい特性があります。一方で、ビジョン2030に基づく非石油セクターの成長は中長期的な分散効果を高める方向にあります。現在の高ボラティリティ環境では、一時的な価格上昇に追随するのではなく、中長期的な投資方針に基づいた資産配分を行うことが肝要です。

また、情報収集の質と速度も地政学リスク下では特に重要になります。中東情勢は日々急速に変化しており、英語圏のメディア(Bloomberg、Reuters、WIONなど)からのリアルタイム情報収集体制を整えておくことが、適切な投資判断の前提条件となります。

投資家向け実務ポイント

SNBキャピタルの分析によれば、TASIの2026年予想レンジは10,000~11,700ポイント、配当利回りは4.4%~5.0%とされています。バリュエーションが正常化すれば12,800ポイントへの回復も視野に入るとの見通しですが、紛争の推移次第ではレンジの下限を割り込むリスクもあります。投資を検討する際は、エントリータイミングよりも分散投資とリスク管理の仕組みづくりを優先させることが重要です。

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まとめ

米イ戦争という未曾有の地政学リスクの中で、サウジアラビアのTadawul指数は戦前水準を上回る回復力を示しています。その背景には、国内投資家の買い支え、原油高による恩恵、ビジョン2030に基づく経済多角化の進展、S&PによるA+格付けの維持、そして2026年2月からの外国人投資規制撤廃という複数の構造的要因が存在します。

一方で、紛争は依然として継続中であり、ホルムズ海峡の通行障害やイランによる湾岸諸国への攻撃など、リスク要因は消えていません。ドバイ市場の17%下落が示すように、同じ中東地域でも投資先によってリスク耐性は大きく異なります。

日本人投資家がサウジ株式市場への投資を検討する際は、制度的なアクセス手段の確認、為替リスクの考慮、ポートフォリオ全体のバランス、そして信頼性の高い情報源からのリアルタイムな情報収集を徹底することが求められます。地政学リスクを過度に恐れるのではなく、構造的な強みとリスク要因の両面を冷静に分析した上で、中長期的な投資方針に基づいた意思決定を行うことが、この局面を乗り越える鍵となるでしょう。

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【免責事項】本記事は情報提供を目的としており、投資勧誘を意図するものではありません。投資判断は自己責任で行ってください。記載されている価格、条件、制度等は今後変更される可能性があります。投資前に必ず最新の公式情報および専門家の助言をご確認ください。

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